− トレーニング強度とその効果(1) −

前章で紹介してカルボネン式中の"運動量"の値をどうするか?
提案者によって微妙に値が異なりますが、大抵4つか5つのレベルに分けられます。
比較的簡単(大雑把)なものをまず取り上げ説明します(これから始めようという方には事足りると思います)。

  1. 非常にイージーなトレーニング(運動量50−60%)
  2. 私たちが行うトレーニングの中で、フィットネスのレベルを上げる事のできる最も楽なトレーニングで、エネルギー源として主に脂肪が選択されます。
    大部分の人にとって、気がとがめてしまうほど軽く感じられるペースです。
    会話も楽にできますし、息が切れるという感じもないでしょう。

    この強度は次のような人々に最適です。

    1. 初心者、または長期休止後運動を再開する人
    2. 回復を図りたい人
    3. 減量したい人

    (注:運動量50−70%で運動すると燃焼する脂肪の割合は多くなりますが、最終的な脂肪燃焼量は運動量70−85%で運動する方が多くなると言う実験結果があります。これはハードな運動の方がエネルギー消費量が多いためです)

  3. エアロビック・コンディショニング(運動量60−70%)
  4. 心拍トレーニングを行う上で、最も大切な強度と言えそうです。
    あなたが初心者でも世界クラスのプロでも、全トレーニングの半分以上はこのゾーンで行うことになります。
    また、ランナーズ誌の読者にはお馴染み、「マフェトン理論」の"180公式"で計算される値も、大方この範囲に納まる事に気付くでしょう。

    このゾーンには次のような効果があります。

    1. 心臓の血液供給能力を高める
    2. 筋肉中の小血管を増やす
    3. 酸素代謝を司る筋肉内酵素を増やす
    4. 筋肉組織、腱、靭帯および骨を強化する
    5. 身体をトレーニングに慣らす
    6. 体重管理を助ける
    7. 持久力を向上させる

    この強度でも主なエネルギー源は脂肪で、まだ軽く感じられ、会話の妨げにもならないでしょう。

  5. 定常状態(運動量70−80%)
  6. これは私たちが維持できる最高のペースと言えますが、まだ楽で「痛みとは無縁」です。
    そのため、すべてのトレーニングをこの強度でしてしまうというミスを犯す人が何と多いことか!運動がキツイと感じる初心者が多いのも無理ありません。

    この運動強度での効果

    1. 身体をより速いペースに「慣らします」
    2. 持久力をアップさせます
    3. 乳酸を発生させずに維持できるスピードが上がり始めます

    コンディションが悪いと、筋肉はグリコーゲンの形で貯蔵されている炭水化物をエネルギー源として選択しますが、フィットネス・レベルが上がってくると、脂肪を選択する割合が増えてきて、限られた量の貯蔵グリコーゲンを節約しながら、この速いペースで長く運動できるようになります。

    フルマラソンやアイアンマン・レースに向けたペース走等をこのレベルで行うと良さそうです。

  7. アネロビック閾値(運動量80−90%)(無酸素性作業閾値/AT)
  8. 前々章の用語説明の中でも少し触れましたが、トレーニング強度が低い時は、酸素の存在下でグルコースや脂肪を燃焼させるので、十分なエネルギーを供給するという点で代謝にトラブルは起きませんが、強度が高くなると、心臓と肺が需要を満たし続けるだけの酸素を供給できなくなります。
    すると、身体は酸素を必要としない短時間の化学反応でグルコースを燃焼させて埋め合わせます。
    乳酸等の老廃物が急速に生産されるため、数十秒間しかこの強度の運動を続けられません。

    この閾値を僅かに下回る心拍数で、短時間(3〜5分)トレーニングすることが有用とされています(いわゆる「インターバル・トレーニング」と言われるものをこの強度で行うのです)。

    フィットネス・レベルが上がると無酸素性作業閾値の心拍数は増加します。

    この強度のトレーニングは次のような場合に行います。

    1. 数ヶ月にわたってトレーニングを続け、体力に自信がある場合
    2. 競争したいという野心がある場合

    では、自分の無酸素性作業閾値(AT)の心拍数はどれくらいなのか?
    心拍トレーニングをしない人にとっても、この値(心拍数を使わなければペースや感覚)を知る事は重要でしょう。


    AT補足

    定義に即して言えば、本来のAT値を知るには、運動中の呼気に含まれる二酸化炭素と酸素の割合の変化を調べなければなりませんが、これは実験設備がなければ測定できません。
    (有酸素運動ができなくなって、体内に乳酸が蓄積し始めると、血液が酸性に傾くので、PHを保つために体は炭酸ガスを捨てようとします。その結果、呼気中の二酸化炭素の割合が急激に大きくなるポイントがATです)

    また、無酸素性作業閾値は、これを越えると乳酸が突然蓄積し始める一定領域以上の心拍数と考えられてきましたが、最近の研究では、瞬時に容易に見分けられる時点ではなく、もっと緩やかな推移であることが確認されています。

    フィットネス・レベルが低いと感じる場合の無酸素性作業閾値は、運動量70−80%かそれ未満ですが、トレーニングが進みフィットネス・レベルが上がってくると、運動量90%になる程、無酸素性作業閾値が上昇します。
    この事から60−90分程度の競技での成績向上のためには欠かせないトレーニングと言えるでしょう(ハーフマラソンや自転車40kmタイムトライアル等)。

    このハードなトレーニングは週に1回サイクリングまたはランニングのセッションで行い、それもフィットネス・レベルが妥当(十分回復している)な場合に行います。
    だだし、水泳の場合は身体が水中に浮遊している状態なので、週に2から3回行っても問題ありません。

  9. 最高にハードなトレーニング(運動量90−100%)
  10. この極めて難度の高いトレーニングは次のような競技アスリートに限られます。

    1. スプリントを必要とするサイクリスト、トラック・ランナー
    2. 短距離アスリート(トラック・スプリンター、短距離水泳選手等)

    マラソンランナーやマルチスポーツ・アスリートは、この短い爆発的な運動を行う必要はないでしょう
    #やれやれ、助かった!

小冊子の最後にこんな事が書かれています。

誰かがこの本を取り上げて、正しい強度の運動は辛くもなければ
骨の折れることでもないと知ってくださればと思います。
古い時代には背を向けましょう!

使わないと、失うことになりますよ...

幸運と健康を、
そして
常に楽しい時を

                                             Mat Brick  筆者紹介  ブリック氏から

次の章では心拍数と血中乳酸レベルの関係から、もう少し詳細に運動強度を設定する場合を紹介します。
HRMを長年使いこなしている方は、こちらを参考にしてください。

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