女性レーサーのトレーニング

By:Joe Friel
訳:山口さん
原典:Velonews Training Tips

1.導入

数年前、非常に優れた女子プロレーサーが、私をコーチにするかどうかについて面接を行った。途中、彼女は非常にいい質問をしたのだが、振り返ってみるとその時の私の答えは満足いくものではなかった。それは、男性と女性ではトレーニングのやり方が違うのだろうかという実に単純な質問だった。私の答えもまたそれに劣らず単純な「ノー」というものであったが、あまりにも簡単すぎたかも知れない。女性には、男性とは異なったやり方をしなければならないことがあるが、男性から見ればそれは取るに足らないものに見えてしまうのだ。

2.相違点、類似点

男女間の明確な違いは明らかだ。腰の幅、脚に比べて短い胴、そして低い重心。これらは全て女性用競技車の構造に影響を及ぼす。違いはそれだけではない。多くの研究によれば、エリート女子選手の有酸素能力はエリート男子選手を若干下回る。男性のVO2Maxの最高記録は94ml/min.kgだが、女性は77ml/min.kgである。ちなみにどちらもノルディックスキーの選手だった。また、最大筋出力に関しては、ご存じのように女性は男性をはるかに下回る。

現実のレースの世界では、同レベルの男女選手間の類似点は相違点より多い。女子選手は男子選手と同量のトレーニングをこなすことが可能だし、トレーニング効果も基本的に同じである。絶対的な強度以外は、両者のトレーニングに大差はない。しかし、男子選手にはほとんどあてはまらないが、女子選手が相対的に強くなる方法がいくつかある。これらについて以下に紹介する。

3.量と質

女子選手は男子選手と同量のトレーニングを行うことは可能だが、果たしてその必要があるのだろうか?女子のレースの展開は男子のそれとは大きく異なる場合が多い。まず女子の部は距離が短く、男子の半分程度の場合もある。また、確実な証拠があるわけではないが、女子のレースは男子に比べて集団スプリントで決まる場合が多いように見える。その反面、単独あるいは複数の強い選手がレース序盤に集団から逃げを打った場合、男子レースに比べて、そのまま最後まで逃げ続け、勝負が決まってしまう場合が多い。

つまりどういうことかというと、女子ロード選手は練習の量より質を重視した方がいいいだろうということだ。長距離を一定のペースで走り有酸素能力をつけることが重要ではないと言うのではない。もちろんそれも重要だ。しかし、女子選手の場合は、レースの要求に応えるために、パワーと無酸素持久力により重点を置くことが必要ではないだろうか。トレーニングの重点を、量からこの2つの質を高めることにやや移行することにより、レースでよりよい結果を生み出す可能性が増すだろう。

4.筋力をつける

平均的な女性の筋力は、平均的な男性の2/3程度だが、これは体のどこでもそうだというわけではない。女性は脚の筋力は比較的強いが、腹部と腕は弱い。ここに女子選手の向上のための最大の秘訣がある。腕と腹部の筋力を鍛えることにより、ライバルを上回る登坂力ととスプリント力をつけることができる。力強いダンシングには、脚のトルクを逃さないように、上体を安定させる筋力が必要だ。スパゲッティのようななよなよした腕や、アコーディオンのようによろよろした腹部ではせっかくの脚力が逃げてしまう。女性の骨盤のサイズと形状を考えると、腹部の筋力は特に重要だ。

5.メンタルな強さをつける

社会はスポーツに関して女性にあまり多くの期待を抱いておらず、あまり投資をしないものだ。男性と比べて少ない報道、賞金、観客。加えて、より大きな家事の負担により練習時間が短い場合も多い。女性がスポーツで成功することは、とりもなおさず彼女らの忍耐力と献身的な努力のたまものである。

女性のスポーツ参加にはこのように多くの障害がつきまとうが、私が感じた限りでは女性は勝ち負けに関して男性より概して健全なものの見方をするようだ。女性は一般に、相手を打ち負かすことよりも自ら設定した目標を達成することを重視する傾向があり、そのため負けても打ちひしがれることが少なく、また精神的回復も早い。逆に男性は、勝てると思ったレースを落とした場合、自分の「男らしさ」が傷つけられたと思ってしまう。女性は別の分野で、より男性より重く、深い心理的負担を抱えることが多いからだろうか。

しかし、女子選手は、ふがいない成績を自らの能力のなさと解釈しがちである。幼い頃から、スポーツは男の子のもので、女の子はスポーツが不得意と教えられてきたのだから無理もないかも知れない。逆に男子選手は、思うようなレースが出来なかった場合には自らの努力不足と見る。能力はここでは問題とはならないのだ。従って、自らの能力に自信を持つことは女子選手の成功への不可欠なステップである。ポジティブな自己暗示や、自分を励ましてくれる友人を持つことは、男子選手よりも女子選手の進歩にとってより重要な役割を果たす。

6.食事を考える

女性は脂肪を蓄えやすいため、体重がハンデとなる可能性のある種目の女子選手は摂取カロリーを控える。これはとりわけ高脂肪、高蛋白食品について顕著である。しかし、持久競技のアスリートは、一般人のみならず、蛋白質を大量に摂取するボディビルダーより多量のの蛋白質を必要とする。女子選手が低蛋白の食事をとることは有酸素能力の低下をもたらし、疲労や貧血の原因となる。

女子選手の中には、1日3000キロカロリー以上の需要があるのに1日2000キロカロリー以下に食事を制限している人も多い。しかし、平均的なアメリカ人の食事には1000キロカロリー当たり5mgの鉄分が含まれる。つまり、このような女子選手は15mgの鉄分を摂取すべきところを10mgしか取ってないとも言える。菜食主義を取り入れる女子選手も多いが、これはさらに鉄分が少なく、また吸収されにくい形で鉄分を摂取することになる。

あまり女性には人気はないが、摂取カロリーを増やすことや赤みの肉を食べることは解決策だ。鉄分の摂取と吸収を高める他の方法としては、鉄分の含有量が高い食品をオレンジジュースかビタミンCと一緒に食べることや、鉄製の調理器具で、酸性のトマトソースを使って料理することが挙げられる。薬品による鉄分補給について医師と相談するのも考えだが、医師の診断なしに行ってはいけない。また、茶、小麦のもみがら、制酸剤、リン酸カルシウムのサプリメント等、鉄分の吸収を阻害する食品は避けた方がいいだろう。

女性、いや全てのサイクリストは、冬期に血液検査を行い、鉄分濃度のベースラインを決定しておくべきである。

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