心から伝えたいHRM活用法

By:Joe Friel
訳:山口さん
原典:Velonews Training Tips

1.導入

1980年代初頭に登場したハートレートモニター(HRM)は現在ではサイクルコンピュータに次いでポピュラーな装置であり、トレーニング方法に改革をもたらした。
HRMは1990年頃に量産化されたが、それまでは物珍しさの対象でしかなく、多くのアスリートにとっては無意味であった。しかし現在はほとんどの競技者がHRMを所有するようになり、使い方が多少わかるようになってきた。
レース場ではHRMを使っていない人の方がむしろ少数派だろう。

HRMは、速度ではなくエンジンの負荷を示すという点で自動車のタコメーター(回転計)に似ている。心拍数は体にかかる負荷を表すのに適した指標なので、心拍数を知ることは、練習やレースでの意志決定を必要な情報を提供する。体が感じる負荷の感覚で決めてもいいのだが、時としてやる気(あるいはその欠如)が感覚を狂わせる。こんな時にHRMが役に立つ。

2.HRMからの情報

レースや練習中に、HRMにより得られる情報の例としては以下のようなものがある。

2.1 私は十分にがんばっているか?

インターバルやテンポのような質の高いトレーニングは、順化のためにはある程度の負荷レベルに達することを要求する。HRMは、スピードメーターの読みとは無関係に、貴方が高負荷トレーニングが出来ているかどうかを教えてくれる。またレースでは、もっと力を入れられるかどうかが常に鍵になる。練習とレースは、ある負荷で体がどのような反応をするかを教えてくれる。

2.2 私はがんばりすぎていないか?

坂でのインターバル練習で力一杯走っているような気がしてもHRMの読みが所定の値に達しない時は、その1本はきつすぎであり、練習を止めて回復すべきだということだ。HRMなしでは、貴方はそのまま練習を続け、結果として疲労や故障で何日も練習できない羽目になったかもしれない。また、TTや逃げの場面では、HRMはレッドゾーンぎりぎりに自分を置き、「売り切れ」状態を防ぐのに役立つ。

2.3 私は回復したか?

HRMがあると、いつハードな練習を再開すべきかがわかりやすくなる。安静時心拍数が高い時や、強度の低い練習をしているにも関わらず心拍が高い時は、もっと休めと体が警告しているのだ。HRMは我々の感覚と違って、生活のストレスを見逃さない。

2.4 私のフィットネスは向上したか?

いつものコースを走っている時や、エアロバイクで一定心拍数で練習している時のタイムやパワーアウトプットを比べてみると、トレーニングの効果がわかる。

3.AT値を基本にしたトレーニング

HRMを使うサイクリストにとって、AT(有酸素運動の限界:LTという言葉も用いる)の心拍数を知ることは、正しいサイズのフレームを選ぶと同じくらい重要だ。これに対して、最大心拍数を見つけるのはあまり意味がない。それこそ拳銃を頭に突きつけられてやれと言われたくらいのモチベーションが必要だし、AT値と比べてあまりよい指標ではないからだ。

最大心拍数の何%でAT値となるかは個人差が大きいので、AT値に基づいてトレーニングゾーンを設定するほうがより正確である。例えば、ある人のAT値は最大心拍数の85%で、もう1人は90%である場合、2人とも最大心拍数の90%でトレーニングすると、1人は完全に無酸素領域でトレーニングしており、もう1人は境界領域でトレーニングしているということになる。これでは同一の練習ではなく、結果も異なってくる。2人が各々のAT値でトレーニングすると、負荷レベルは同一であり、効果も同じとなる。

4.AT値を見つける

AT値を見つけるのは精密な測定を要するが、別に恐がる必要はない。簡単な方法としては、HRMを装着してTTを行うことが挙げられる。距離は5km、10km、40km、何でもいい。TTレースの場を利用してもいいし、練習の一環として行っても構わない。このTTの平均心拍数がだいたいATの指標となる。実際のレースでは単独で行う練習よりモチベーションが高いので、両者の結果は同一視すべきではない。繰り返して行う毎にAT値の推計が正確になる。TTの平均心拍数よりATを算出する目安を以下に挙げる。

距離 レース 練習
5km ATの110% ATの104%
10km ATの107% ATの102%
8−10マイル ATの105% ATの101%
40km ATの100% ATの97%

つまり、十分休養を取ってモチベーションの高い選手が10マイル(16km)TTレースを行い、平均心拍数が176だった場合、彼のAT値は176÷1.05=167になる。また逆に、この表はTTをどれくらいの心拍数で走るべきかを判断する目安に使ってもいい。40kmTTはAT値の100%で走るべきなのだ。

AT値を見つけるもう1つの方法は、負荷(エクザーション)と呼吸に関するものだ。いいエルゴメーターを使って、軽い負荷で始め、時速1km毎、あるいは20W毎にゆっくりと負荷を高めていき、もうこれ以上できない点まで続けよう。誰かに1分ごとに心拍数と、負荷レベルを記録してもらおう。負荷レベルを示す。

 
ほとんど負荷がない
8 
非常に軽い
10
11 まあまあ軽い
12
13 やや重い
14
15 重い
16
17 非常に重い
18
19 限界点に近い
20

経験を積んだアスリートの多くが、AT値を示しているときの負荷を15〜17と評価している。この時点で貴方と記録者の方が耳をすませば、貴方の呼吸の強さに変化が生じるのがわかるだろう。これはVT(ventilatory threshold)と呼ばれ、ATを伴うものだ。負荷レベル、VT、ATを比べることにより、比較的正確にAT値を求めることが出来る。

AT値の正確な判定は大学や病院のような実験施設で可能だろう。これは往々にして非常に高価だが、生理学やスポーツ科学の研究室で、誰か学生が研究対象を集めていないか聞いてみるのも手だ。モルモットになるのがいやでなければ、無料でテストを受けられる可能性がある。AT値を見つけたら、以下のようなガイドラインでトレーニングをすればいい。

5.AT値に基づいた心拍トレーニングゾーン


対AT% トレーニングの種類 レースでの使用法
65−81 積極的回復 ウォームアップ、クールダウン
82−88 LSD 低強度、定負荷
89−93 長距離、中強度あるいは短距離、高強度 通常のロードレースでの負荷、長距離TT(40km以上)
94−100 クルーズインターバル(有酸素)、短距離、高強度のスピード持久力 逃げ、逃げ潰し、坂(>6分)
100−102 クルーズインターバル(無酸素)、坂、スピード持久力 同上
103−105 インターバル、坂インターバル 坂(<6分)、クリテリウム、スプリント、飛び出し
106< パワービルディング、耐乳酸トレーニング スプリント、飛び出しの反復

種目により心拍数は異なる。冬期のクロストレーニングの一環としてランニングをしている時のAT値は自転車に乗っている時とはまた異なる。これは他のスポーツでもあてはまる。このため、行うスポーツ毎にAT値を見つけるか、他のスポーツでは感覚的な負荷の認識にとどめるか、どちらかにする必要がある。

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